※ この記事は2023年7月時点の情報を元に記載しています。
今回は以前にも取り上げたミネラルコルチコイド受容体拮抗薬についてです。
以前の記事はこちら「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は腎臓・心臓保護効果がある 〜 FIDELIO-DKD study〜」
フィネレノンはケレンディア®という名称で、2022年より薬価収載され保険診療で使用できるようになっています。
2023年6月1日より投与期間制限がなくなり利用しやすくなりました。
適応症:「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病」
CKDであればだれでも使用できるというわけではありません。今のところは2型糖尿病を合併したCKDに限定されます。
では、どのような人に使用するのが良いでしょうか?
以下の2つの臨床試験の内容確認してみます。
- FIDELIO-DKD試験
- FIDGARO-DKD試験
1. FIDELIO-DKD study
FIDELIO-DKD試験については、上述の以前の記事もご参照ください。
主要評価項目 腎複合エンドポイント(腎機能低下、透析など)
患者背景:
- 2型糖尿病を有するCKD患者で以下の条件を満たす方
「尿アルブミン 30 ~ 300 mg/gCre かつ eGFR 25 ~ 60 ml/min/1.73m2 かつ 糖尿病性網膜症あり」
または
「尿アルブミン 300 ~ 5000 mg/gCre かつ eGFR 25 ~ 75 ml/min/1.73m2 」
- ACE阻害薬またはARBによる標準治療を受けている方
介入・対象:
- フィネレノン 1日1回 20mg内服 または プラセボ。無作為に1:1に割付。
結果:
- フィネレノン群で腎複合エンドポイントの発現リスクを18%有意に低下。
2. FIDGARO-DKD試験
Cardiovascular Events with Finerenone in Kidney Disease and Type 2 Diabetes
Bertram Pitt, et al. N Engl J Med. 2021 Dec 9;385(24):2252-2263. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34449181/
患者背景は、FIDELIO-DKD試験よりも腎機能低下の程度が軽い方です。
心血管疾患を主要評価項目として、腎機能については副次評価となっています。
主要評価項目
- 心血管複合エンドポイント(心不全、心筋梗塞、脳卒中など)
副次評価項目
- 腎複合エンドポイント(腎機能低下、透析など)
患者背景
- 2型糖尿病を有するCKD患者で以下の条件を満たす方
「尿アルブミン 30 ~ 300 mg/gCre かつ eGFR 25 ~ 90 ml/min/1.73m2」
または
「尿アルブミン 300 ~ 5000 mg/gCre かつ eGFR 60以上」
- ACE阻害薬またはARBによる標準治療を受けている方
介入・対象
- フィネレノン 1日1回 20 mg内服 または プラセボ。無作為に1:1に割付。
結果
- 心血管複合エンドポイントの発現リスクを13%有意に低下させた。
フィネレノン群 3686 例中 458 例(12.4%)とプラセボ群 3666 例中 519 例(14.2%)に発生した(ハザード比 0.87,95%信頼区間 [CI] 0.76~0.98,P=0.03)
- 腎複合エンドポインの発現リスクはフィネレノン群で低い傾向はあるが有意差なし。
フィネレノン群 3686 例中 350 例(9.5%)とプラセボ群 3666 例中 395 例(10.8%)に発生した(ハザード比 0.87,95%信頼区間 [CI] 0.76~1.01)
FIDELITY試験
補足として、FIDELIO-DKD試験とFIDGARO-DKD試験を統合解析を行ったFIDELITY試験を簡単にご紹介します。
Cardiovascular and kidney outcomes with finerenone in patients with type 2 diabetes and chronic kidney disease: the FIDELITY pooled analysis
Rajiv Agarwal, et al. Eur Heart J. 2022 Feb 10;43(6):474-484
合計 13,026人を解析したところ、フィネレノン群はプラセボ群と比べて、心血管複合エンドポイントおよび腎複合エンドポイントの発現リスクを有意に低下させました。
コメント
以下は、上記の臨床研究の結果を踏まえてのコメントです(私見を含む)。
FIDELIO-DKD試験、およびFIGARO-DKD試験に組み要られていない患者背景の方については、有効性はまだ確認されていません。
- すでに進行したCKDの場合 eGFR 25未満
- アルブミン尿が出ていない場合 UACR 30未満
- 非糖尿病性のCKDの場合
ACE阻害薬・ARBやSGLT2i阻害薬と同様にMRAについても、内服治療開始時にeGFRが低下するinitial dipが起こります。すでに進行してしまっているeGFR 25未満のCKDの場合は、有効性がはっきりしないこととinitial dipや高カリウム血症のリスクが上がることから、ケレンディアの使用はかなり慎重になる必要があります。
アルブミン尿陰性のCKDについては、eGFRが悪化するリスクが低いケースがまあまああるため、その場合は薬を使おうが使わまいがあまり関係ないとということがあります。
また、糸球体過剰ろ過よりも腎血流低下・虚血がある場合が想定されるため、腎血流や糸球体加療ろ過にアプローチするACE阻害薬・ARBやSGLT2iの効果が限定的だろうと予想されるのですが、MRAについては、慢性炎症や線維化抑制効果が想定されるため、アルブミン尿陰性のCKDにも効果が期待されてもよいかもしれません。
あくまで私見ですが、eGFRの低下速度が比較的大きい場合や、肥満、心不全など慢性炎症が想定される場合は検討しても良いのかもしれません。
SGLT阻害薬との併用について
FIDGARO-DKD試験とFIDELIO-DKD試験の試験デザインとしてACE阻害薬またはARBによる治療を受けている方を対象としているので、ACE阻害薬またはARB治療にフィネレノンの上乗せ効果があると言えます。
一方で、SGLT2阻害薬との併用については、上記臨床試験の開始後にCKDに対する新たな標準治療と位置づけられた薬剤のため、SGLT2阻害薬を使用しているケースが少ないです。そのため、フィネレノンとSGLT2阻害薬の併用による有効性については、今のところ結論は出ていません。FIDGARO-DKD試験とFIDELIO-DKD試験のうちSGLT2阻害薬を使用している人はそれぞれ約8%、約4%しか含まれていません。
限定された情報ではありますが、FIGARO-DKD試験のサブ解析では、SGLT2阻害薬を使用したほうが、尿中アルブミンは減少していたと報告されています。Kidney Int Rep. 2021 Oct 14;7(1):36-45
フィネレノンの使用方法(薬剤添付文書より)
- eGFR 60以上の場合、20mgを1日1回内服。
- eGFR 60未満の場合、10mgを1日1回内服。血清カリウム値、eGFRに応じて4週間を目安に20mgへ増量。
※ 定期的にカリウム値を測定して用量調節が必要
まとめ
- フィネレノンは2型糖尿病に合併したCKDに対して、保険収載、長期処方解禁となりました。
- 使用に際しては適応を十分検討してご使用ください。(現在、eGFR 25未満、尿アルブミン陰性のCKDに対する有効性は確認されていません。また、糖尿病の合併のないCKDに対する有効性も確認されていません。)
- 高カリウム血症にご注意ください。