ウェルビーイング内科クリニック船橋法典

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腎臓

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は腎臓・心臓保護効果がある 〜 FIDELIO-DKD study〜

 

  • 本日は新たに慢性腎臓病の治療薬となりそうな薬についてのお話をお届けしたいと思います。
  • 非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)に分類される薬剤です。

 

ミネラルコルチコイドとは?

 

  • 副腎から分泌されるホルモンで、主なものがアルドステロンです。
  • アルドステロンは、血圧調節や体の中のミネラルバランス調節を行っています。
  • アルドステロンが過剰になると体の中に塩分が貯留し血圧が上がるだけではなく、慢性炎症や線維化により臓器障害を引き起こします。

 

レニンーアンギオテンシンーアルドステロン経路

 

  • 慢性腎臓病(CKD)の治療にはレニンアンギオテンシンアルドステロン経路の阻害が大切です。
  • CKD治療の中心的役割を担っているACE阻害薬ARBのRAS阻害薬はアンギオテンシンIIを抑制することで、血管を拡張して血圧を下げます。腎臓においては輸出細動脈を拡張し糸球体内圧をさげることで、尿タンパクを減らすなど腎臓を保護する働きをします。
  • また、RAS阻害薬はアルドステロンの産生も抑えます。

ACE阻害薬はアンギオテンシンIからアンギオテンシンIIへの変換を抑える薬剤、ARBはアンギオテンシンIIのAT1受容体への作用を抑える薬剤、MRBはアルドステロンのミネラルコルチコイド受容体に対する作用を抑える薬剤です。

 

  • しかし、RAS阻害薬を長期に使用していると、アルドステロンの抑制が効かなくなってくることがあります(アルドステロンブレイクスルー現象)。
  • また、ミネラルコルチコイド受容体は、アルドステロンの他にも活性化される経路があるため、RAS阻害薬ではミネラルコルチコイドの活性を十分に抑制することができません。
  • そこで、ミネラルコルチコイド受容体を直接抑制する薬が期待されます。

 

これまでのミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

  • 非ステロイド骨格ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の登場の前でも、スピロノラクトン(アルダクトンA®)、エプレレノン(セララ®)というミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が使用されていました。
  • スピロノラクトンおよびエプレレノンでも、心不全の進行抑制、血圧低下、尿タンパク減少などの効果は認められます。
  • しかしながら、女性化乳房(スピロノラクトンの副作用)や、高カリウム血症という問題点があります。
  • また、CKDの抑制という観点では、腎機能低下を抑制したというハードアウトカムはありませんでした。

これまでは尿タンパクを減らす効果はあっても腎機能の低下を抑えられるかはわからなかった

 

新しいミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

  • エサキセレノン(ミネブロ®)、フィネレノン(ケレンディア®)はステロイド骨格を持たないという特徴があり、ミネラルコルチコイド受容体の選択性がとても高いです。つまり、余計なところに作用せず、副作用が少なくなります。
  • また、動物実験のレベルでは、より強い抗炎症作用、抗線維化作用が認められています。

論文 FIDELIO-DKD study

Effect of Finerenone on Chronic Kidney Disease Outcomes in Type 2 Diabetes.
Bakris GL, et al.
N Engl J Med. 2020 Dec 3;383(23):2219-2229.

  • 軽度から中等度腎機能の低下した糖尿病性腎症の患者さん(eGFR 25-60, または顕性アルブミン尿あり)に、ARBやACE阻害薬による既存の治療を行った上で、フィネレノンの有る無しでどれくらい腎機能の低下や心臓血管疾患の発症に差が出るかを調べたものです。
  • フィネレノンによる治療を行った方が、腎機能の低下を有意に抑えることができました。
    主要転帰イベント(eGFRのベースラインから40%以上の減少、腎臓疾患が原因の死亡)は,フィネレノン群 2,833 例中 504 例(17.8%)とプラセボ群 2,841 例中 600 例(21.1%)に発生した(ハザード比 0.82,95%信頼区間 [CI] 0.73~0.93,P=0.001)
  • 心臓血管疾患についても、フィネレノンによる治療によって有意に減らすことができました。
    副次的転帰イベント(心血管疾患が原因の死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全)は,それぞれ 367 例(13.0%)と 420 例(14.8%)に発生した(ハザード比 0.86,95% CI 0.75~0.99,P=0.03)
  • 有害事象は全体として、2群間で同程度でしたが、高カリウム血症はフィネレノン群のほうがプラセボよりも高かった。
    それぞれ 2.3%と 0.9%

 

エサキセレノンに腎保護効果はある?

  • フィネレノンは、未承認薬であり現在のところ使用することはできません(2021年3月現在)。
  • では、現在使用できる非ステロイド骨格MRBのエサキセレノンに腎保護効果はあるのでしょうか?

 

エサキセレノンは、糖尿病性腎症の尿タンパクを抑制したというデータはあります。

Esaxerenone (CS-3150) in Patients with Type 2 Diabetes and Microalbuminuria (ESAX-DN): Phase 3 Randomized Controlled Clinical Trial.
Ito S, et al.

Clin J Am Soc Nephrol. 2020 Dec 7;15(12):1715-1727. 

  • 糖尿病性腎症の患者さんを対象にエサキセレノンの投与で尿アルブミンの寛解・減少が認められるかを評価した論文です。
  • 対象は2型糖尿病と高血圧を有する方で、アルブミンが出ている方です。全例すでにRAS阻害薬による治療を行っています。
  • 結果としては、エサキセレノン群で有意に尿アルブミンの寛解及び減少効果が認められました。
    アルブミン尿の寛解はエサキセレノン群222人中49人(22%)、プラセボ群227人中9人(4%)(絶対差 18%、95%信頼区間 12 – 25%,P<0.001)
  • 高カリウム血症はエサキセレノン群で多く見られました。
    エサキセレノン群 20人(9%)、プラセボ群 5人(2%)
  • 結論として、糖尿病性腎症の患者さんに対して、既存のレニンアンギオテンシンシステム阻害薬による治療に、エサキセレノンを追加投与することで、有意にアルブミン尿を減らすことができました。

 

  • 今のところ、エサキセレノンがeGFRの低下を抑制したというデータはありません。
  • 今後、エサキセレノンによって腎機能低下が抑制できるという新しいデータが出てくることに期待したいと思います。

 

まとめ

  • 新しいミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 (MRB) はCKDの進行を防ぐ効果が期待できる。
  • MRBを使用の際には、高カリウム血症に注意が必要。