ウェルビーイング内科クリニック船橋法典

アクセスアイコンアクセス
腎臓

ダパグリフロジン「慢性腎臓病」に対する保険適応を取得

SGLT2阻害剤のダパグリフロジン(フォシーガ®)が「慢性腎臓病」に対して、保険適応を取得しました。

 

以前のブログ(慢性腎臓病の新しい治療薬 ~SGLT2阻害薬~)で、紹介しましたSGLT2阻害剤のダパグリフロジン(フォシーガ®)に、「慢性腎臓病」に対する効能・効果が追加されました(2021年8月26日)。

 

これまで、糖尿病と慢性心不全の方にしか使えませんでしたが、適応が広がったことにより慢性腎臓病に対する治療の選択肢が広がり、透析予防や予後改善が期待できます。

 

以下、添付文書より一部抜粋

・効能又は効果

慢性腎臓病。ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

eGFRが25 ml/min/1.73m2未満の患者では、本剤の腎保護作用が十分に得られない可能性がある。

・用法及び用量

ダパグリフロジンとして10mgを1日1回経口投与する。

 

つまり、慢性腎臓病であれば保険上の制限はあまりありません。

では、実際のところどのような患者さんに使用するのが良いか、以下私見を交えて考察してみます。

 

1. eGFRが25ml/min/1.73m2未満の患者に対する有効性について

 ダパグリフロジンのCKDに対する有効性を示した臨床試験(DAPA-CKD試験)*1では、eGFR 25ml/min/1.73m2未満の方が対象となっていないため、有効性が不明です。

*1 Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2020 Oct; 383(15):1436-46.

以前のブログで紹介した論文です(慢性腎臓病の新しい治療薬 ~SGLT2阻害薬~)。

 

 ダパグリフロジン以外のSGLT2阻害剤の臨床試験についても見てみたいと思います。

 

  • EMPA-REG OUTCOME試験

対象患者:eGFR 30 ml/min/1.73m2以上、糖尿病と心臓血管疾患のある方

サブグループ解析では、eGFR 30-45, 45-60, 60-90, 90以上に分けて解析しています。いずれのeGFRのグループにおいても、腎保護効果が認められています。

また、尿アルブミン排泄量(UACR)による層別化でも、尿アルブミンがある、ないにかかわらず腎保護効果が認められています。

 

  • DECLAR-TIMI 58試験

対象者:糖尿病と心臓血管疾患の危険因子の多い方、eGFRの基準なし

eGFRによる層別化解析では、60未満、60-90, 90以上に分けて解析されています。eGFR 60未満の群で腎保護効果が弱い傾向があります。ただし、このスタディーではeGFR 60未満の群の人数が少ないという問題はあります。

 

  • CREDENCE試験

対象者: eGFR 30-90ml/min/1.73m2かつ尿中アルブミンクレアチニン比 300-5000mg/gCre、糖尿病のある方

サブグループ解析では、eGFR 30-45, 45-60, 60-90、UACR 1000以下、1000以上で分けて解析しています。eGFR 60未満、UACR 1000以上の群で有意な腎保護効果が認められています。eGFR 60-90の群、及びUACR 1000以下の群では、腎保護効果がある傾向はあるものの有意差は認められていません。

 

以上より、eGFR 25ml/min/1.73m2の方を対象とした試験はなく、eGFR 25ml/min/1.73m2未満の方に対して腎保護効果があるかは不明です。

SGLT2阻害薬の使用開始時には、一時的にeGFRの低下が起こることがあること、そもそも腎機能の低下した方に使用しても効果が期待できるか分からないということから、高度に腎機能が低下した方に使用する場合は注意が必要です。

それ以外の方に関しては、eGFRの小さい、大きいにかかわらず有効性はあるのではないかと思います。

また、尿タンパクの有無でも有効性に変わりがあるとも言えない印象です。

 

個人的には、CKDに対する標準的な治療を行っているにもかかわらず、CKDの進行リスクの高い方(腎臓学会の出しているヒートマップの黄色以上の方、eGFR 45ml/min/1.73m2以下、尿タンパク 0.5g/gCre以上)に対して、使用するのがいいと思います。

 

2. 用量「ダパグリフロジンとして10mgを1日1回経口投与する」について

上記の臨床試験(DAPA-CKD試験)のデザインがダパグリフロジン10mgを1日1回となっています。5mg錠については臨床試験がないため適応から外れています。

EMPA-REG OUTCOM試験では、エンパグリフロジン10mgと25mgの2群の検討がなされており、低容量でも腎保護効果が認められています。

おそらくダパグリフロジン5mgも腎保護効果があるのではないかと推測しますが、はっきりとは言えません。

SGLT2阻害剤の使用により一時的に腎機能が悪化することがあるため、低容量から試すことができると良いので、低容量のSGLT2阻害剤の慢性腎臓病の適応が追加されることを期待したいです。

 

まとめ

  • SGLT2阻害薬のダパグリフロジン 10mgが、慢性腎臓病の治療として保険適応が追加されました。
  • 腎機能低下リスクの高い方への使用をお勧めします。