ウェルビーイング内科クリニック船橋法典

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高血圧

高血圧症の治療の目標血圧は?

2024年6月の診療報酬改定によって、生活習慣病療養計画書を作成・交付するようになりました。そのときに、血圧の目標値についての説明を行っています。

患者さんから、血圧の目標値が変わったのでは?と聞かれたことが何度かあったので、なんのことかと思い調べてみました。

どうやら、全国健康保険協会(協会けんぽ)の高血圧の未治療者に対する受診勧奨基準が変わったことが、高血圧の診断基準が変わったと誤解されているようです。

 

協会けんぽ未治療者の方への受診勧奨(重症化予防事業)

◯ 収縮期血圧≧160mmHg 又は 拡張期血圧≧100mmHg
未受診者に対してして、すぐに医療機関の受診するように連絡する(受診勧奨)。

◯ 140mmHg≦収縮期血圧<160mmHg 又は 90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg
生活習慣を改善する努力をした上で、数値が改善しないなら医療機関の受診をすること。

 

この受診勧奨の部分を指して、高血圧の基準が160/100になったと勘違いされているのようです。実際には高血圧の診断と治療の基準は全く変わっていません。

では、血圧160/100まで治療する必要がないのでしょうか? 高血圧の治療目標はどのように定められているかということを踏まえて、降圧目標について考えてみましょう。

 

高血圧の診断基準

140/90 mmHg以上

 

高血圧の診断基準および治療目標は、高血圧ガイドライン2019に基づいて考えられています。

140/90を超える血圧がしばしばみられると高血圧症の診断となります。

 

治療目標

  • *1 低中等リスク患者では生活習慣の修正を開始または強化し、高リスク患者では降圧薬の治療の強化を含めて、最終的に130/80 mmHg未満を目指す。
  • *2 随時尿で0.15g/gCre異常を尿蛋白陽性とする。
  • *3 併存疾患になどによって一般的に降圧目標が130/80mmHg未満とされる場合、忍容性があれば130/80mmHgを目指す。

 

上記の降圧目標設定の根拠としては、

  1. 血圧が高い方が脳血管疾患(心筋梗塞、脳卒中など)が増える。最も脳血管疾患になりづらい血圧が120/70である。
  2. 降圧剤を使って、厳格な血圧管理を行ったほうが、脳血管疾患になりづらい。

ということが挙げられます。

降圧剤を使用してでも、血圧をしっかり下げたほうがよいということです。

 

 

専門的な細かい説明

細かい説明が不要な方は読み飛ばしてください。

高血圧ガイドライン2019によると以下の論文のデータがガイドライン作成の根拠となっています。

 

1.「血圧が高い方が脳血管疾患が増える。最も脳血管疾患になりづらい血圧が120/70である」について

EPOC-JAPAN研究 Fujiyoshi A, et al. Hypertens Res 2012; 35:947-953

わが国の主要なコホート研究の統合プロジェクト。

国内10コホートに含まれる計約7万人のメタ解析。

血圧が高いほど脳心血管死亡が増える傾向が認められる。

とくに比較的若年者(40~64歳)の群で、血圧と死亡数の関連が顕著である。

 

  • ハザード比は年齢、性、コホート、BMI、総コレステロール値、喫煙、飲酒にて調整。
  • PAF(集団寄与危険割合)は集団すべてが120/80mmHg未満だった場合に予防できたと推定される死亡者の割合を示す。
  • JSH2019より引用。元データ Fujiyoshi A, et al. Hypertens Res 2012; 35:947-953.

 

2「降圧剤を使って、厳格な血圧管理を行ったほうが、脳血管疾患になりづらい」について

Atsuhi S, et al. Hypertension Research 2019; 42:483-495.

降圧治療に関して降圧目標の評価を目的としたRCTについて、19論文(約55,000例)を解析対象としたメタ解析。

アウトカムは、1) 複合心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心不全、心血管死、急性冠症候群、閉塞性動脈疾患、大動脈瘤を含む)、2) 全死亡、3) 心筋梗塞、4) 脳卒中、5) 腎イベント、6) 有害事象とした。

結果、厳格降圧群(到達血圧約130/75)は、通常降圧群(到達血圧約140/80)と比較して、有意に複合心血管イベント、心筋梗塞、脳卒中が少なかった。全死亡、腎イベントについては有意差は認められなかった。有害事象いついては、有意差はないものの厳格降圧群で多い傾向があった。

 

JSH2019より引用。元データ Atsuhi S, et al. Hypertension Research 2019; 42:483-495.

 

まとめ

以下、私見です。

血圧は低いほど、心臓、血管などに優しく、心筋梗塞、心不全などの病気になりづらいです。若い人はそもそも心血管疾患になりづらいので、病気に対する関心が低くなりがちですが、将来的な病気予防となると、若い人ほど、血圧を下げる意義は大きいです。

逆に、高齢者ほど、降圧治療の恩恵は少ないですが、若い人よりも心血管疾患になりやすいので、疾患の絶対数を考えると、降圧治療の恩恵を受けられる方の数は多くなります。

ガイドラインで示されている降圧目標はあくまで目標です。ここの病状や病気、生活、人生に関する価値観を鑑みて、目標を設定すれば良いと思います。

降圧を遵守しすぎる結果、起立性低血圧、めまい、腎障害などが増える傾向もあり、過剰な降圧にも気をつける必要があります。