ウェルビーイング内科クリニック船橋法典

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腎臓

慢性腎臓病 (CKD) に対してエンレスト®は有効か?Meta-Analysis

エンレスト®(一般名 サクビトリルバルサルタン)は、2020年に新規心不全治療薬として、2021年に高血圧治療薬として承認されました。

アンギオテンシン受容体とネプリライシンと両方を阻害作用を持つ新規作用機序の薬剤です(Angiotensin Receptor Neprilysin Inhibitor:ARNI)。

これまでの心不全患者を対象とした臨床試験のサブ解析の結果、腎機能の低下速度を遅くする傾向があり、CKDに対する治療効果が少し期待されています。

エンレスト®の腎機能に対する効果を評価したMeta-Analysisをご紹介します。

 

Effect of Angiotensin–Neprilysin Versus Renin–Angiotensin System Inhibition on Renal Outcomes: A Systematic Review and Meta-Analysis

 Xu Y,et al. Front Pharmacol. 2021 Nov 19;12:604017.

 

方法:

Meta Analysis 解析対象とした論文の条件

  • ランダム化比較試験(RCT)
  • サクビトリルバルサルタンを介入群、対象としてARBまたはACEIなどレニンアンギオテンシン系阻害薬を使用
  • 腎臓に関するOutcomeの評価ができるもの

主要評価項目

  • 血清クレアチニン 0.3 mg/dl以上の上昇、eGFRの25%以上の低下
  • 末期腎不全または腎死

 

結果:

10個の臨床試験が対象となり、対象者は18,362人となった。

対象となった臨床試験は以下の通り。

  • 2012 PARAMOUNT(左室収縮能が保持された心不全HFpEF患者を対象)
  • 2014 PRADIGM-HF(左室収縮能の低下した心不全HFrEF患者を対象)
  • 2018 UK HARP-III (CKD患者を対象)
  • 2018 PIONEER(左室収縮能の低下した心不全HFrEF患者を対象)
  • 2019 PARAGON-HF(左室収縮能が保持された心不全HFpEF患者を対象)
  • 2019 EVALUATE(左室収縮能の低下した心不全HFrEF患者を対象)
  • 2019 PRIME(左室収縮能の低下した心不全HFrEF患者を対象)
  • 2020 PARALLAX(左室収縮能が保持された心不全HFpEF患者を対象)
  • 2021 Post-STEMI(心筋梗塞患者を対象)
  • 2021 PARALLEL(左室収縮能の低下した心不全HFrEF患者を対象)

 

主要評価項目

  • サクビトリルバルサルタン群はレニンアンギオテンシン系阻害薬使用群と比較して、複合的な腎障害(クレアチニンの増加、eGFRの低下、末期腎不全など)の発生が少なかった。

 

 

 

 

 

サブグループ解析

  • 左室収縮能が保持された心不全(HFpEF)患者では、サクビトリルバルサルタン使用群で、複合腎アウトカムの発生が少なかった。
  • 左室収縮能が低下している心不全(HFrEF)患者では、複合腎アウトカムの発生低下は認められなかった。
  • 末期腎不全の発生は、心不全がある患者では低下が認められたが、心不全のない患者では低下は認められなかった。
  • 尿中アルブミン排泄の増加が認められた。

 

副作用

  • サクビトリルバルサルタン群の方が、クレアチニンの増加による薬剤の中止と重篤な高カリウム血症(K 6.0 mEq/L以上)の発生は少なかった。
  • サクビトリルバルサルタン群の方が、低血圧の発生が多かった。

 

結語:

  • サクビトリルバルサルタンは、RAS阻害薬と比較して、クレアチニンの増加、末期腎不全などの発生が少なかった。特に、左室収縮能の保持された心不全(HFpEF)患者でこの傾向が顕著に認められた。
  • 安全性については、RAS阻害薬と比較して重篤な高カリウム血症やクレアチニンの上昇による薬剤の中止は少なかった。
  • 低血圧や尿アルブミン排泄の増加が認められた。

 

論文の考察(私見を含む)

・腎機能低下の抑制を主要評価とした質の高いRCTが存在しないため、サクビトリルバルサルタンに腎保護効果があると結論づけるのはまだ早いと思います。

・心不全のないCKD患者に対する有用性は不明です。

・多くの論文で進行したCKD患者 (eGFR 30未満)は除外されているため、CKD G4以上(eGFR 30未満)についての効果も不明です。

・尿中アルブミン排泄の増加傾向があり、心不全のないかつ尿タンパクの多い例では、むしろ予後を悪化させるのではないかという懸念もあります。

・現時点では心不全を伴う軽度腎機能の低下した方に対しては有用性はあると考えています。

・CKD患者の血圧コントロールを目的に使用する場合の薬剤選択(私見)

  •    心不全がある場合 →  エンレスト
  •    尿タンパクが多い場合 →  ミネブロ (高カリウムに注意!)

 

薬価について

  • エンレスト® 200mg 201.9円
  • エンレスト® 100mg 115.2円
  • ディオバン® 160mg 145.9円(後発品 30.4円)
  • ディオバン® 80mg 76.8円(後発品 18.8円)
  • アジルバ®       40mg 210.2円(後発品なし)

 

エンレスト200mgで高用量のARBと同程度の薬価です。(エンレストは400mgまで増量可能)

後発品を使用していない方の場合は、ARBからの切り替えて使用した場合は薬代の負担も比較的少ないです。

ちなみに、CKDに適応のあるフォシーガ®10mgの薬価は274.3円とお高めです。

 

CKDに対する効果については、今後新しいデータが出てくるか注視したいと思います。