- 慢性腎臓病 (CKD) は、生活習慣病と高齢化を背景にその存在感を増しており、新たな国民病とも言われています。慢性腎臓病の早期発見のために、健康診断でもクレアチニンと尿蛋白の測定が行われるようになってきました。
- 残念ながらクレアチニンは、法定健診(企業における定期健康診断)の必須項目ではないため、職場によっては健康診断でクレアチニンを測定していないところもあります。
eGFRとクレアチニンの関係
- 腎臓の働きが悪くなるとクレアチニンが腎臓から排泄されづらくなり、血液中のクレアチニン濃度が上昇します。
- クレアチニンは筋肉で産生されるため、筋肉量の多いかたは筋肉量の少ない方に比べて数値は高くなるという問題があります。すなわち、血液検査で同じクレアチニンの値でも、筋肉質な若い方とやせたご高齢の方では、腎機能は全く異なります。
- そこで、血清クレアチニン濃度から、年齢と性別を考慮して、腎臓の働きを推測した値がeGFR(推定糸球体濾過量)となります。
- 日本人の標準的な体格の方のeGFRは以下の式で求められます。
男性 eGFRcreat(mL/分/1.73 m2)=194 × Cr (-1.094) × 年齢(歳)(-0.287)
女性 eGFRcreat(mL/分/1.73 m2)=194 × Cr(-1.094) × 年齢(歳)(-0.287) × 0.739
Cr:血清Cr濃度(mg/dL)
女性 eGFRcreat(mL/分/1.73 m2)=194 × Cr(-1.094) × 年齢(歳)(-0.287) × 0.739
Cr:血清Cr濃度(mg/dL)
- 例えば、クレアチニン1.0 mg/dlの場合、20歳男性では eGFR = 82 ml/min/1.72m2、80歳女性ではeGFR = 41 ml/min/1.72m2 という結果となり、全く腎機能は異なります。
クレアチニンと尿蛋白を測定する意義
- クレアチニンと尿蛋白を測定することで、将来の末期腎不全の予後予測の他に、死亡リスク(特に心臓血管疾患によるもの)の評価にもなります。eGFRが60未満 (eGFR 45 ~ 59)で尿蛋白が陰性 (ACR <10)の方は、腎機能が正常な方(緑色の群)と比較して、末期腎不全のリスクは約5倍です。
CKD診療ガイド2012より引用
シスタチンCとは
- シスタチンCもクレアチニンと同様に腎臓の働きが悪くなると値が上昇するので、腎機能を評価するために測定します。
- クレアチニンと異なり、筋肉量の影響を受けないため、クレアチニンよりも正確に腎機能の評価ができます。
- 保険診療では3ヶ月に1回のみ測定可能というしばりがあるということと、クレアチニンに比較して高価である(クレアチニン 11点、シスタチンC 118点)ため、必要時のみの測定となります。
- シスタチンCを用いたeGFRの計算式は以下となります。
男性:eGFRcys(mL/分/1.73 m2)={104 × CysC -1.019 × 0.996 年齢(歳)} -8
女性:eGFRcys(mL/分/1.73 m2)={104 × CysC -1.019 × 0.996 年齢(歳)×0.929} -8
CysC:血清シスタチンC濃度(mg/L)
シスタチンC vs. クレアチニン
- クレアチニンを用いたeGFRCre と、シスタチンCを用いたeGFRcysを比較すると、しばしば乖離がみられます。
- シスタチンCの方がクレアチニンよりも正確にじん機能を反映していることが多いため、シスタチンCの方を信用したいところですが、実際に腎予後どの程度異なるかを調べた研究結果がありましたので、ご紹介します。
Cystatin C versus Creatinine in Determining Risk Based on Kidney Function
N Engl J Med. 2013 Sep 5;369(10):932-43
N Engl J Med. 2013 Sep 5;369(10):932-43
- この研究は、血清クレアチニンとシスタチンCの測定値が入手できた一般集団研究11件(90,750人)と、CKDのコホートを対象にした研究5件(参加者 2960人)のデータを用いてメタ解析を行っています。
- クレアチニンによるeGFRで、じん機能が低下していることを指摘された方(eGFRCre 45 ~ 59, CKD G3aに相当)でも、シスタチンCによるeGFRではCKDに相当しない場合(eGFRcyc 60以上)は、死亡リスクおよび末期腎不全リスクが共に低いという結果になっています。特に、末期腎不全になるリスクに関しては、かなり低くなっています。
- この結果から、健康診断でeGFRの軽度低下を指摘された方でも、シスタチンCが正常範囲で、検尿異常もなければ、腎臓に関して過度に心配する必要はないと言えそうです。
- 逆に、クレアチニンによるeGFRよりもシスタチンCによるeGFRの方が悪い方は、死亡リスクと末期腎不全リスク共に高くなるため、より注意が必要となります。
- 腎機能を評価するためには、健康診断で血清クレアチニンと尿蛋白を測定しましょう。
- 腎機能を正確に評価するためには、血清クレアチニンから算出される、eGFRを求めましょう。
- eGFRの低下が認められた場合は、シスタチンCの測定を行うことで、より正確な腎機能と腎予後の評価を行うことができます。