- 慢性腎臓病に対する治療薬は限られており、現在比較的早期のCKDに対して治療効果がはっきりしているものは、ACE阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などRAS阻害薬と言われている降圧剤のみです。
- 最近、 SGLT2阻害剤が腎機能保護作用を持つことが注目されています。
SGLT2阻害薬とは?
- SGLT2 (sodium glucose co-transporter 2)とは、腎臓の近位尿細管に存在する輸送体です。
- グルコース(ブドウ糖)とナトリウムを再吸収します。
通常、ブドウ糖は糸球体で濾過され原尿中に排泄されますが、尿細管に存在する輸送体によって再吸収され尿中にはほとんど排泄されません。
血糖が高くなると、SGLT2などのグルコース輸送体がある程度は再吸収しますが、再吸収しきれない分は尿糖として排泄されます。
SGLT2阻害薬を使用すると近位尿細管のSGLT2の働きが抑えられるため、グルコースは再吸収されず尿中に排泄されます。
DAPAーCKDについて
N Engl J Med. 2020 Oct 8;383(15):1436-1446.
背景
糖尿病の合併症の1つである糖尿病性腎症は腎機能低下と尿蛋白が特徴です。
SGLT2阻害薬を使用することで、血糖値を改善するだけではなく、腎機能低下速度を抑える効果や尿蛋白が減る効果が認められていました。
これまでの論文では、対象患者が糖尿病の方に限定されていましたが、今回ご紹介する論文では、糖尿病のある・なしに関わらずSGLT2阻害薬は腎機能保護効果を発揮することができるのかというところに注目しています。
これまでのSGLT2阻害薬の腎機能を保護する効果を示した主な論文
- EMPA-REG OUTCOME エンパグリフロジン
Empagliflozin and progression of kidney disease in type 2 diabetes. N Engl J Med 2016;375:323-34
- DECLARE –TIMI 58 ダパグリフロジン
Dapagliflozin and cardiovascular out- comes in type 2 diabetes. N Engl J Med 2019;380:347-57.
- CREDENCE カナグリフロジン
Canagliflozin and renal outcomes in type 2 diabetes and nephropathy. N Engl J Med 2019;380:2295-306.
方法
患者背景:
クレアチニンによる推算糸球体濾過量(eGFR)が 25~75 mL/分/1.73m2。
かつ、尿中アルブミン/クレアチニン比が 200~5,000 mg/gCre。
治療介入:
ダパグリフロジン(10 mg 1日 1回)群とプラセボ群に無作為に割り付け。
主要転帰:
eGFR 50%以上の低下、末期腎不全(ESKD)、腎臓または心血管系が原因の死亡の複合。
結果
- ダパグリフロジンを内服した方は、プラセボを内服していた方に比べて優位に腎機能低下や死亡が少なかった。
(追跡期間中央値 2.4年間に、主要転帰イベントはダパグリフロジン群 2,152 例中 197 例(9.2%)とプラセボ群 2,152 例中 312 例(14.5%)に発生)
- ダパグリフロジンの効果は,糖尿病の方と糖尿病のない方では同程度であった。
結論
CKD患者では、糖尿病の有無にかかわらず、eGFRの50%以上の低下の持続、ESKD、腎臓または心血管系が原因の死亡の複合リスクは、ダパグリフロジンによる治療を行なったほうがプラセボよりも有意に少なかった。
SGLT2阻害薬が慢性心不全に対して適応追加!
- 残念ながら現在のところ、慢性腎臓病に対するSGLT2阻害薬の使用は保険適応がありません。
- (注:2021年9月より適応症に慢性腎臓病が追加されました!)
- SGLT2阻害薬の適応症は、元々糖尿病のみでしたが、2020年11月にSGLT2阻害薬の1つであるダバグリフロジン(フォシーガ®)が慢性心不全に対して保険適応が承認されました。
- SGLT2阻害薬は、CKDに対して良いとわかっていながら、糖尿病のないCKD患者さんには使用できませんでした。CKDの方は慢性心不全を合併することも多いため、この適応追加によって、より多くのCKD患者さんに使用できるようになりました。
SGLT2阻害薬の主な副作用と注意点
- 尿路感染症・性器感染症
- 脱水
- クレアチニン上昇
尿に糖分が含まれるため細菌が繁殖しやすくなります。陰部のかゆみ、ただれ、おしっこをした時の痛み、残尿感などが現れた場合は医師にご相談ください。
尿中に糖分とナトリウムを排泄すると同時に水分の排泄も増えます(おしっこの量が増えます)。水分補給を行うよう心がけてください。
SGLT2阻害薬の内服開始後はクレアチニンが上昇することがあります。多くの場合は、一時的なもので長い目で見るとクレアチニンの上昇はSGLT2阻害薬を内服しない場合よりも抑えられます。
- SGLT2阻害薬は、糖尿病のないCKD患者さんに対しても進行を防ぐ効果がある。
- SGLT2阻害薬のダバグリフロジンは、糖尿病のない慢性心不全患者さんに対して保険適応が追加となった。