ウェルビーイング内科クリニック船橋法典

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腎臓

SGLT2阻害薬は進行した腎臓病に対しても有効か?

前回、SGTL2阻害薬が慢性腎臓病(CKD)の適応を取得したという話題について記載させていただきました。

「ダパグリフロジン「慢性腎臓病」に対する保険適応を取得」(2021/9/8)

 

今回は、ある程度腎不全が進行した方に対してもSGLT2阻害薬が有効かどうかを検討した論文を紹介したいと思います。

SGLT2阻害薬は腎臓にあるナトリウムグルコース輸送体に作用し、尿から糖を排泄する薬であるため、腎機能が低下した場合は血糖値を下げる効果がなくなってしまいます。そのため、糖尿病の治療薬としては、腎機能の低下した方にはSGLT2阻害薬は使用されません。

 

今回紹介する論文ではeGFR 30未満(CKD stage 4に相当)の方に対して、SGLT2阻害薬が腎保護効果を発揮するかどうか評価を行なっています。

 

論文

Effects of Dapagliflozin in Stage 4 Chronic Kidney Disease
J Am Soc Nephrol. 2021 Sep;32(9):2352-2361.

 

以前紹介したDAPA-CKD試験の参加者のデータをもとに解析を行なっています。

(以前の記事はこちら「慢性腎臓病の新しい治療薬〜SGLT2阻害薬〜」

方法:

対象者は、クレアチニンによる推算糸球体濾過量(eGFR)が 25~75 mL/分/1.73m2、かつ尿中アルブミン/クレアチニン比が 200~5,000 mg/gCreの方です。

上記の基準で参加エントリー後に、ダパグリフロジン(10 mg 1日 1回)群とプラセボ群に無作為に割り付けを行い、この時点のeGFRによってeGFR 30未満の方を抽出して解析しています。

主要評価項目は、eGFR  50%以上の低下、末期腎不全(ESKD)、腎臓または心血管系が原因の死亡の複合です。

結果:

eGFR 30未満の方で、ダパグリフロジンによる治療を行なった方は293人、プラセボを使用した方は331人。

主要評価項目(eGFR  50%以上の低下、末期腎不全(ESKD)、腎臓または心血管系が原因の死亡)は、ダパグリフロジンの使用によりプラセボに比べて27%の低下が認められました。

年間のeGFRの低下速度は、ダパグリフロジン群 -2.15 mL/分/1.73m2, プラセボ群 -3.38 mL/分/1.73m2とダパグリフロジンによる治療によって、有意に腎機能の低下が抑制されていました。

有害事象に関しては、ダパグリフロジン群とプラセボ群で有意な差はなく、eGFR30未満の方に対するダパグリフロジンの安全性についても問題ないと考えられます。

結語:

ステージ4のCKD患者に対しても、ダパグリフロジンは他のCKDのステージの方と同様の腎臓に対する保護効果が認められた。

 

2つ目の論文

Effects of Canagliflozin in Patients with Baseline eGFR <30 ml/min per 1.73 m2

Clin J Am Soc Nephrol. 2020 Dec 7;15(12):1705-1714

 

こちらの論文は、2型糖尿病患者に対するカナグリフロジンの腎保護効果を検討したCREDENCE試験のデータを元にして、eGFR 30未満の方に対象を絞って解析したものです。

 

方法:

対象者は、eGFR 30-90ml/min/1.73m2、かつ尿中アルブミン/クレアチニン比 300-5000mg/gCre、糖尿病のある方です。

カナグリフロジン群とプラセボ群に無作為に割り付けを行い、この時点のeGFRによってeGFR 30未満の方を抽出しています。

評価項目として、eGFRの低下速度、腎臓・心臓血管疾患に対する影響について解析を行なっています。

結果:

eGFR 30未満の方で、カナグリフロジンによる治療を行なった方は84人、プラセボを使用した方は90人でした。

1年間の平均eGFRの低下速度は、カナグリフロジン群とプラセボ群でそれぞれ、-1.30と-3.83 mL/分/1.73m2とカナグリフロジンにより有意に腎機能の低下が抑制されていました。

腎臓不全・クレアチニンの2倍化、腎・心臓関連死亡については、eGFR 30未満の方もeGFR 30以上の方と同様なカナグリフロジンの効果が認められました(ただし、eGFR 30未満群では、プラセボと比較した時のイベント発生率に有意差は得られていない)。

有害事象については、eGFR 30未満群でプラセボと比較して有意に増加することありませんでした。

結語:

eGFR 30未満の進行した腎不全の方にSGLT2阻害薬であるダパグリフロジン、カナグリフロジンによる治療を行なったところ、腎機能の低下を抑制しました

 

まとめと注意事項

  • SGLT2阻害薬はCKD stage4の方にも腎機能低下の抑制効果はありそうです。
  • ただし、今回使用した臨床研究ではさらに進行したCKDの方は含まれていません(eGFR 20未満の方はほぼ含まれいない)。現時点では、ダパグリフロジンの添付文書にある通り、eGFR 25 ml/min/1.73m2 未満の方に対する有効性は不明です。
  • また、SGLT2阻害薬とプレセボ群でeGFRに有意差がつき始めるのが2年ほど経ってからということを考えると、eGFR 20未満の方、特にCKD stage 5(eGFR 15未満)の方に対する腎保護効果は期待できないかもしれません。